強い風が吹いて
その場に佇んでいた匂いを吹き飛ばした
懐かしい匂いだった気がして
くんくんと犬のように匂いを探してみても
吹き抜けていく風を
ひきとめることも出来ずにいる
あの匂いは
いつかの母の匂い
いつかの家の匂い
いつかの家族の匂い
いつかの・・・・。
吹き抜ける風が
だらしなくぶら下げたビニール袋をガサガサと揺らす
そこにある現実に
負けたくはないと歩き出した
強い風が吹いて
この現実も吹き飛ばしてしまえればいい
吹き飛ばされた先に
懐かしい匂いが待っていて・・・
そんな風には思いたくなくて
そんな風には引き留められたくなくて
強い風に更に一歩足を踏み出す
歩いていく先の確かさを信じて
振り返る先の温かさを感じて
また一歩足を踏み出した