16.池に映った
3月7日。
今日で十六日目。
今日もまた、散歩に出かけた。
安原が掛けてくる時間には、いつも外にいるようになった。
おかげで、人ごみの無い絶好の散歩コースまで見つけられた。
毎日規則正しく出かけていくから、お母さんはダイエットのために散歩していると思っているみたい。まぁ、そういう効果も期待出来ちゃうかもね。
散歩しているとね、すごくいいことがあるんだ。
小学校の脇にある、用水路にカルガモの親子が住んでいるとか。
その先の防火用の池には巣があるらしいとか、そういう小さい発見とか出来た。
小学校なんて、もうずっと昔のような気がする。
この道は、あの頃の通学路だったもんね。
あの頃の私は毎日泥だらけになりながら、この道を帰って来てたんだよ。
その頃、カルガモの親子っていたのかな。思い出せない。
せっかく、携帯を持ち歩いて外にいるんだから。今度は写真を撮ろうと思う。
こういうとき、カメラ付き携帯って便利だと思う。
絶好のシャッターチャンスをばしっと撮って、送ってやろう。
・・・不思議だよね、その時、安原の顔が浮かんだんだ。
あいつ、あれでいて動物大好きだから。きっと目じりを下げて喜ぶよ。
すげーって、めちゃくちゃ喜んで、今度一緒に見ようなって、笑うんだ。
そういうあいつの姿が容易く想像出来ちゃう自分に、それはもう驚いて。
池の中を覗き込んでたから、思わず携帯を落としちゃうかと思った。
それくらい、その時は衝撃的だったんだよねぇ。
池の中にはカルガモはいなかったけど。ものすごく驚いた顔の自分がいた。
それから、そっと髪型なんか直して取り繕ったけど、一体誰に対して取り繕っていたんだろうか、あの時の私。
嘘みたいだけど、あの時の気持ちって、ものすごくあっさり出てきちゃってて。
私の中で、あいつの存在がどんどん大きくなっているんだって怖くなったよ。
・・・今日、あいつから電話無かった。