15.雑踏
3月6日。
今日で十五日。
あのバカ安原から、毎日の様に連絡が来る。
「今度は何時会えるの?」なんて、まるで恋人みたいに言うんだ。ちょっと待て。
付き合うって、言ってないよね?・・・言ってないもん。
この間、あれほど話したってのに、ちっとも懲りてないんだモノ。
私がどれだけくだらなくて、どうしようもない人間だってことも。
"初めて"ってやつを、さっさと捨てちゃったって事も。
愛されたくて、愛してくれる人を探している、自分勝手な奴だってことも。
そのくせ、恋愛を面倒くさがっているってことも。
あれも、これも。みんなぶっちゃけたのに、ちっとも怯まない。
で、結局また毎日電話が掛かってきて、その度にそれらを蒸し返していて。
そういう妙に込み入った話をしているのを聞かれたくなくて、安原から電話が掛かってくると、家を出て行く私の身になってよ。
あの会話をお母さんにだけは聞かれたくなくて、携帯片手に散歩に行くって出てくる。
・・・逆に、怪しいか。
で、結局今日も。いつもと同じ様な話になっちゃって。
携帯片手に散歩をしているんだけど、人ごみの中じゃお互い、相手の声がよく聞えなくて、その上話がいつもこじれちゃう。
ぎゃいぎゃい携帯に怒鳴り散らしながら歩いている私を、世間の人はどう見ただろう。
人ごみの中に紛れ込んでいたら、わかんないもんだと思ってたんだけど。
逆に人の目が多いってことに気がついた。
すれ違っていく人たちが、ちょっと妙な目で見てたよ。恥ずかしい。
これもみーんな、安原のせいなんだから。
「好きだから、なんでもいいよ」とか、言うんだもん。頭きちゃう。
説得力に欠けるんだよなぁ、あいつ。
別にかっこよくないし、特別何かあるわけでもない。
まったく、損な奴よね。って大きな声で携帯に叩きつけて電話を切った。
雑踏に紛れ込んでも、これだけはびしっと伝わったでしょ。
私なんかに構わずに、他の人を好きになればいいのに。さ。