38.朝のできごと

 

 

3月28日目。

今日で三十八日目。
今朝、いきなり電話があった。もちろん(?)安原から。
ちょっと出て来いよって、いきなり高飛車な電話だったから本気で頭にきて。
ふざけんなっ。って怒鳴りそうだったんだけど、朝なのでテンション低くて。
というか、安原の声がすごく静かで、ちょっと怖くて。
朝だし忙しいからって、これから家を出る所だってそう断りながら家を出たら。
あいつの車が家の前に横付けしてあって。
断りの言葉も途中で途切れて、思わずおはようなんて、弱気で朝の挨拶。
ちらり助手席側から車の中を覗き込むと、こちらを向こうともしない安原。
しばらく突っ立ってたら、中からドアを開けてくれて。無言で座れって強要。
頭の中、もうぐるぐるしてて、何がなんだかさっぱりだった。

なんとなく、今一番会いたくない人で。
なんとなく、今一番話をしたくない人で。

でも本当は、ちょっと気になっていた人で。

だからきっと、あんなふうに困ったんだろうと思う。
バイト先まで送ってくれて、でも歩いてすぐの場所だったから。わざわざ車で送ってくれなくてもと思ったんだけど、雨が降ってたからって、それだけで来てくれた。
多分、理由なんて何でも良くて。
だって、私が家を出た頃にはすっかり雨なんて上がっていて。
あいつが押し付けるみたいに渡してくれたビニール傘はずっと車に入ってたやつで。
二人で狭い車の中、息するのも苦しいくらいの数分で。
だけど、それが。
久しぶりの二人きりの時間なんだって思ったら、申し訳なくなって。
ありがとうも言えないまま。
ごめんねも言えないまま。
車を飛び出した私は、ひどく惨めで悪い女だった。

今日はちょっと苦しいから。
明日、電話するよ。

 

 

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