44.飛んだ

 

 

4月3日。

今日で四十四日目。
バイトの帰り道、目の前をよぎる黒い物体に驚いた。
正確には、黒じゃなくて灰色だったんだけど。野良猫。
ばびゅんっ。ってすごい勢いで路地から飛び出してきて目の前を通り過ぎた。
何?って、思わずびくついて足を止めて、その方向を見てみると。
どうやらその猫、鳥を追いかけてたみたいなのね。
ひゃ〜、食物連鎖!弱肉強食の世界!ってんで、思わずびびる。
野良猫って、本当に野生的なのねぇ。なんて感心しつつも視線が居ってた。

塀の上を抜き足差し足でひたひた近づいていく野良猫。
松の木の枝の上で、ちゅんちゅん鳴いているスズメ。
ひたひたと一歩ずつ縮まっていく距離に、ドキドキしているのは私のほう。
早く逃げろーと、心の中では叫んでいたんだけど言葉にならず。
こんなシーン、そう見られるもんじゃないもんねぇ。
・・・ちょっと、悪いやつかもしれない。私。
で、その猫の居る塀と、スズメの止まっている木の枝までは、二メートルはあった。
これなら安心ってどこかで思ってみていたんだけど。
猫が身を低くしたと思ったら、びょ〜んて、ものすごいジャンプ!
猫の身体が伸び上がったと思った瞬間には、目の前を飛び上がる灰色の物体。
ひゃぁ〜って、思わず変な声で驚いて。お陰で(?)スズメは空へ。
危機一髪。

音も無く飛び上がった猫もすごいけど、この後もっとすごかったの。
スズメの後を追って、屋根の上を猛スピードで駆け上がっていったんだから。
がたごと瓦が音を立てて、その音に電柱に止まっていたほかの鳥も飛んで行った。
さすがに抜き足差し足の猫も、屋根瓦の音までは止められなかったみたい。
とたとたっと勢いよく駆け下りてきたかと思ったら、びょ〜んてまた飛んできた。
猫が飛ぶ瞬間なんて、早々見られないよ。
くるんと一回転、見事なジャンプでした。
私的には、金メダル。って感じだったなぁ。

 

 

<< back  < index >  next >>