「 復 讐 」

 



 真っ青な空だった。見上げると首が痛くなるくらい高い位置に太陽がいて、じっと私の肌を灼く。白いだけが取り柄の私の肌を、じりじりと突き刺す様な熱が襲う。照りつける太陽が、トースターのように私を小麦色に灼いていく。その間、私はずっと太陽の容赦ない視線にあてられて、肌を赤く染める。

 そんな日だった。
 そんな暑い日だった。

 私は庭に出て、一枚のボロ毛布を敷いた。猫の額に等しい庭は、毛布一枚を敷いただけで一杯になってしまう。それでも私は、庭一面に毛布を敷き、その上に横になる。毛布越しに湿った土の気配が伝わり、背筋を寒くさせた。

 前日は、今日の天気が嘘のように大雨だった。湿った空気も、湿った土も今朝までその余韻を残していた。
 まるで私の中に巣くう、どんよりとした湿った気持ちのように、じっとりと。薄靄のかかる気怠い朝が、私の気持ちに黴を生やしかけていた。
 だから・・・。
 日が出るのを待って、私は庭に出る。
 身長と同じ高さのブロック塀が、通りから私を隠してくれる。湿った土はほんの少し雨の匂いを残していて、胸に吸い込んだ空気を、しっとり重くさせた。
 麻のノースリーブから出た肩は、麻の感触が痛いくらいに日に灼けている。
 白い木綿のスカートは、そよ風を受ける度、小さく膨らんでいる。
 穏やかな日だった。
 じっと素肌を太陽にさらしながら、私は目をつぶる。太陽の光が、瞼を突き破って明るさを強調し、私の脳をくらくらさせる。土から立ち上る蒸気は、むっとして息苦しくさせる。

 そして・・・。
 私は私を虫干しする。

 湿った気持ちを乾燥させるために。湿った身体を乾燥させるために。
 この手のひらにかいた汗は、乾かずに残るのだろうか?
 胸に流れる汗は、乾かずに残るのだろうか?
 自身を蒸発させるくらいに熱い日差しを、私は心のどこかで望みながら、毛布の上で微動だにせず、じっと太陽に灼かれている。

 そうすることで、変われることは何もないのに。拒絶反応を起こした肌が、痛いほど後悔させるのに。赤く腫れた肌が、しばらく心を責めるのに。
 この太陽で蒸発してしまいたい思いと、蒸発させたい涙とが、私をこの場に縛り付ける。
 胸に巣くうのは、よどんだ私の気持ち。黴を生やしかけた、湿った気持ち。

 ・・・そして。
 つい昨日までは暖かで輝いていた気持ち。

 たった一度のキスも。たった一度のセックスも。ほんの少しも望んだことはないのに。まるで望んでいたかのように、心を苛むのは何故だろう。後ろめたく感じるのは、何故だろう。
 暖かで、輝いていた私の想い。
 ささやかで、やわらかい気持ちは、今は心にずしりと重い。


 あなたが好きだと言った夏に、私はどれだけ復讐できるだろうか?
 あなたが好きだと言った白い肌に、あなたが好きだと言ったこの庭に。
 私ができる復讐はただ一つ。


 照りつける太陽に、私はじっと肌を灼く。
 この太陽が沈むまで、この身体が蒸発するまで。胸に巣くう、じっとりと重くなった気持ちが、跡形もなく蒸発するまで。

 そうすることで、私は変われるだろうか。
 そうすることで、あなたに復讐できるだろうか。

 私の心を奪ったあなたに。



あとがき

 

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