9.モノ
2月29日。
今日で九日目。
昨日のリンゴは、結局一個だけ食べて、後はお母さんにあげた。
なんで急にリンゴ!?って、不思議そうだったけど、ウサギの形に綺麗に切れたのを見て、そっちもすごく不思議がってた。「あんたは器用に生まれたわよねぇ」って。
確かに、私って結構器用だと思う。
バレンタインとかお菓子作るし。小さい頃から工作とかすごく得意だった。
のこぎりとか金槌とか、すごい憧れだったのを思い出した。
お父さんが、何かを作っているところって、すごくかっこよく見えてた。
それは、すごく昔のことね。今は、親父なんてどうでもいい。あいつは、嫌い。大嫌い。
でも、子供の時はすごく好きだったんだよなぁ。
・・・って、思い出して救われない気持ち。
お父さん子、だったんだよね。私。嘘みたい。
いつから、嫌いになったんだろ。
やっぱ、殴られたときかな。ボコボコにされた時。
何時頃だった?確か、受験を控えていたころだったよね。
すごく、辛かったのだけ覚えてる。
いつからあいつ、暴力とか振るってたんだろ?
記憶にあるのは、大きくなってからだけど、記憶に無いくらい小さい頃だって、きっとやってたよね。あいつ。
最低、男なんて結局、みんなそんなもんだよね。
最近、バイトはじめてから朝も夜も顔をあわせなくなったから、すごく平和。
むこうも、ジジイになったから、前みたく暴力震えないんじゃない?
ざまあみろよね。
家にいるのかいないのか、よくわかんないけど。それでもやっぱ、一応一家の大黒柱として、居座ってるみたい。
柱って言うか、ただの、置物。父親って名前の、どうでもいい置物。
・・・酷いこと、書いてるのかなぁ。
モノじゃなくて、ちゃんとした父親がよかったな。
そうしたら、こんな風に、男に対して救われない思いなんかしてないのかもしれない。